痛みについて

痛みって何?

身体は「痛み」を感じることで、身体のどこかに異常や異変が生じていることに気づきます。「痛い」という感覚がないと、危険を察知し回避することができず、ケガや病気をし、時には命の危険につながることも…。

「痛み」は、体温、呼吸、脈拍(心拍)、血圧と並び、生きているという証明…“サイン(バイタルサイン)”とも呼ばれ、身体や命を守る、生命活動に欠かせない役割があります。 ところが、痛みのなかには「生命活動に必要のない痛み」も存在します。
必要以上に長引く痛みや、原因不明の痛みは、大きなストレスとなり、不眠やうつ病など、様々な症状を引き起こすきっかけとなることもあります。
このような状態では、「痛み」は「痛み」そのものが【病気】と考えられ、治療を必要とします。

痛みを感じるしくみ?

すり傷や切り傷、火傷、打撲などにより身体が刺激を受けると、「身体が損傷した」という情報が発生し、電気信号に変換され、神経を伝って脳に達します。
「痛み」とは、脳が「痛み」の情報を認識したときに、「痛い」と「感じる」ものです。
「痛み」が病気ではない状態のときは、「痛み」の感覚の原因となったケガが治癒することで、「痛み」の感覚も消えていきます。

痛みの種類

単に「痛み」といっても、原因や状態によって「痛み」は異なります。
「痛み」は、その原因によって大きく3つに分けることができます。

  • 侵害受容性疼痛:炎症や刺激による痛み
  • 神経障害性疼痛:神経が障害されることで起こる痛み
  • 心因性疼痛:心理的・社会的要因によって起こる痛み

長期にわたる慢性的な痛みでは、これらの原因が複雑に絡み合って関与しています。

出典/BIRD整骨院

痛みの慢性化

出典/日刊工業新聞

急に痛くなって短期間でおさまる痛みを「急性の痛み」、1~3ヵ月以上と長期間続く痛みは「慢性の痛み」といいます。
「急性の痛み」は、原因となるケガや病気が治ることで、痛みは消えていきますが、痛みが起こったときに適切な治療をせず放置しておくと、その痛みが別の痛みを引き起こし、「慢性の痛み」に変わってしまうこともあります。
痛みを感じると、交感神経の高ぶりや運動神経の興奮が起こり、血管の収縮や筋肉の緊張が起こります。その結果、血行不良になり、「痛みを起こす物質」が発生します。
痛みが生じても、交感神経の反応がすぐにおさまり、血行が改善されれば、痛みは鎮まります。しかし、痛みが長期化すると、血行の悪い状態が続き「痛みを起こす物質」がより多く発生してしまいます。
「痛みを起こす物質」は、血管を収縮させ、血行不良を悪化させ、「痛みを起こす物質」をさらに増加させる、という“痛みの悪循環”を引き起こします。

痛みが慢性化すると、痛みを引き起こした原因がなくなっても、痛みを取り去ることが困難になります。→痛みの記憶の定着:記憶の痛み
痛みが長期間続くと、痛みにばかり注意が向いてしまい、不眠の症状が出たり、不安・恐怖からうつ傾向になってしまったり…。結果、さらに痛みにとらわれてしまい、「痛み」の症状が重くなるという悪循環に陥ります。

そのため、痛みは慢性化する前に適切な治療を行って、出来る限り早急に原因を取り除くことが大切です。無理な我慢をすることで悪化してしまうため、痛みの悪循環に陥らないよう、早めの治療が鉄則です。
痛みの長期化やさまざまなストレスにより、脳の中にある「痛みを抑える神経」の力が弱まり、痛みを通常より強く感じたり、痛みがさらに慢性化すると報告されています。

炎症や刺激による痛み(侵害受容性疼痛)


出典/日刊工業新聞

ケガや火傷をなど、いわゆる外傷の痛みです。ケガをした部分に炎症が起こり、痛みを起こす物質が発生し、末梢神経にある「侵害受容器」を刺激することで痛みを感じることから、「侵害受容性疼痛」と呼ばれています。
ほとんどが急性の痛みで、肩関節周囲炎(いわゆる五十肩)や腱鞘炎、関節リウマチ、頭痛、歯痛、打撲、切り傷などが含まれます。

何らかの原因により神経が障害され、それによって起こる痛みを「神経障害性疼痛」といいます。
帯状疱疹治癒後の長期化した痛みや、坐骨神経痛、脳卒中や脊髄損傷による痛みなど、傷や炎症などが見た目にはわからないにも関わらず、痛みを感じる場合は、神経が原因となっている可能性があります。

心理・社会的な要因による痛み (心因性疼痛)

神経障害性疼痛と同じく、傷や炎症などは見つかりません。不安や社会生活で受けるストレスなどの、心理的・社会的な要因で起こる痛みです。

心因性疼痛と間違えやすい痛み

・侵害受容性疼痛+神経障害性疼痛+脳の認知機能異常:記憶の痛み → 混合性疼痛

脳の認知の異常によって生じる痛み(記憶された痛み)であり、痛みの本質は心(精神機能)ではなく、脳(認知機能異常):記憶の痛みであると言われています。
過去には、心因性疼痛と分類されていましたが、現在の医学では、検査で異常が発見できない痛みも、原因が無く痛みを感じているわけではなく、脳に何らかの異常が起きている可能性を考えるようになりました。
現在、未だ原因が明らかにされていない線維筋痛症に伴う疼痛もこのタイプの痛みと考えられています。

その他の混合性疼痛

おもに侵害受容性疼痛+神経障害性疼痛による症状
いわゆる腰痛症(検査して異常の見つからない腰痛)などが代表的です。

※混合性疼痛も、長期化することにより、心因性疼痛まで引き起こすことが多いため、治療には多角的アプローチ(手技+物理療法+カウンセリングなど)が必要です。

痛みと天気

雨が降る前の日に古傷が痛む、頭痛が起こる…といった話をよく聞きます。
特に、関節リウマチ、偏頭痛、腰痛といった慢性の痛みを抱える方は、雨の日や寒い日に、痛みがひどくなる傾向が見られます。人の身体は、日々、天気の影響を受けています。

このような身体と天気の関係に対する研究は古くから行われ、古代ギリシャ時代からと言われています。ドイツでは、1952年からハンブルグ気象台で、「気象が健康状態に与える影響」を予報がしていたそうです。
日本では、1962年に設立された「日本生気象学会」で研究が始まり、最近では、「健康天気予報」という天気による体調変化に対する予防を行うためのサービスもあります。
痛みにもっとも影響する天気の変化は、気圧の低下です。外部の気圧が低下すると、関節が膨張し、圧迫されることで痛みが生じます。

また、気温の低下も痛みを引き起こす原因とされています。気温が低下すると、冷えにより血液の流れが悪くなり、交感神経が刺激されることで痛みが生じていると考えられています。
気圧と気温の変化にも関連性があり、エアコンの温度を1~2℃変えるだけで、室内の気圧が変化するといわれているため、室温管理にも注意が必要です。

ただし、すべてが天気による影響ではないため、いつも感じる天気による痛みとは違った、痛みの変化や症状を感じたときは、何かの別の原因疾患などが隠れている可能性もあるため、専門機関に相談することが大切です。
気象の変化に左右されないためには、まずは、身体を冷やさないことが、肝心です。冷え込みの予報があるときには、厚めの上着を用意する、簡易カイロを用意する…など冷え込みへの対策に気を配るよう注意してください。
軽めの運動や、入浴、マッサージなど血行促進作用を期待できることを試してみるのも効果的です。その他、体重を増やさないように食習慣を見直す、正座を避けるなど、常日頃から関節に負担をかけないようにすることも大切です。

痛み治療の変化

現在でも、日本では「我慢は美徳」とする文化があるため、多少の痛みは我慢するべきだと考えられる傾向にあります。
昔は、治療方法も適切であったとは言い難く、痛みの「原因を治療」し取り除けば、「痛みも取れる」と考えられており、「痛みそのもの」に対する治療は見過ごされがちでした。
今では、痛みの「原因の治療」と並行して、「痛みそのもの」に対する治療も行われるようになり、「痛みは我慢するべき」という考え方にも変化が起きています。
アメリカでは、アメリカ連邦議会によって、2001年からの10年間を「痛みの10年」とする…と宣言されています。
これは、痛みによる経済損失が莫大であったことから、慢性疼痛に対する概念が、『単なる急性疼痛の延長ではなく、痛みが起こる仕組みから異なる別の疾患であるという考え方』に変化したことによります。
これをきっかけに、アメリカだけでなく世界中で痛み(特に慢性疼痛)に関するさまざまな活動、痛みとその治療の調査・研究などが行われるようになりました。
日本では、特に慢性疼痛に対して、課題や今後の対応について検討する目的で、2009年12月から厚生労働省が「慢性の痛みに関する検討会」を開催するなど、痛みに対する取り組みが始まっています。

痛みは、我慢するものではありません。
痛みは我慢しないで、早めに適切な治療をすることが大切です!